Vol.89: トランプ関税にオールジャパンで立ち向かう
トランプ大統領による相互関税の発動により、戦後日本の繁栄を支えた自由貿易体制が危機に瀕しています。世界恐慌下の1930年代、米国の高関税政策をきっかけに各国が保護主義に走り第二次世界大戦へと突入しました。その反省を踏まえ、戦後はGATTやWTOといった自由貿易体制が世界経済の発展に寄与してきました。しかし今回のトランプ氏の関税政策は、その枠組みを根底から揺るがすもので、すでに中国やカナダが報復関税を発表するなど、ドミノ倒しのように各国に保護主義が広がる恐れがあります。
私は外務委員会で岩屋外務大臣に今後の対米交渉のあり方を問いました。まず2019年に第一次トランプ政権との間で締結した日米貿易協定を土台に交渉を進めるべきです。この協定で、日本はコメに対する関税を、米国は自動車と自動車部品に対する関税を2.5%に維持することで合意し、「さらなる交渉による関税撤廃」が約束されました。また日本は米国産の牛肉や豚肉の関税を引き下げており、合意が反故になるのであれば、牛と豚の関税についても再検討の余地が出てくるなど、この協定を駆使して米国に約束の履行を強く求めるべきです。
その上で、粘り強い交渉が必要です。トランプ氏を再び大統領に選んだ米国社会が抱える格差や矛盾にも目を向けながら、米国にとって魅力的な提案、グランド・ストラテジーを示さなければなりません。例えば、アラスカ州の天然ガスパイプライン建設への投資です。中東地域にエネルギー供給を依存している日本にとって、米国から競争力の高い液化天然ガス(LNG)の供給が増加すれば供給源の多角化にも貢献します。LNGについては韓国など近隣諸国と協力した購入プロジェクトも考えられます。米国が主張する「非関税障壁」とされる自動車や農産品の受け入れ拡大も視野に入れるべきです。また安全保障面でもアジアの同志国と共に米国のプレゼンスを受け入れる新しい構想を提示することが必要です。
このような対米交渉を進める一方で、より広くパートナーを多角化させる日本外交も不可欠です。欧州や韓国、豪州、ニュージーランド、台湾などとの連携を強化し、自由貿易体制を守らなければいけません。例えば、昨年12月に英国が加わったCPTPPに、EUを統合する構想を検討すべきです。英エコノミスト誌の分析によれば、CPTPPとEUに韓国、ノルウェー、スイスをあわせると、世界の総輸入量の約3分の1を占め、米中合計の約4分の1を上回ります。これらの国々が共同して米国の関税政策に対処するグループを結成し、域内の取引を増やしていくことが重要です。
国内においては、関税政策による国民生活や経済への影響を最小限に抑え、損害を受ける業種・企業の資金繰り支援に集中すべきです。神奈川県では、影響を受ける中小企業を支援するために県金融課に特別相談窓口(045-210-5695)を設置しています。また自社製品が追加関税の対象となるのか、関税率の算定などの相談は、ジェトロ(日本貿易振興機構)横浜貿易情報センター(045-222-3901)までお寄せください。
対米交渉の「先頭」に立つ日本の姿勢は各国の試金石となります。日本への注目がかつてなく高まる中、より能動的かつ主体的に国際社会への働き掛けを展開しなければなりません。与野党の垣根を越えてオール・ジャパンで取り組んでまいります。
2025年4月吉日
衆議院議員 太栄志 拝