Vol.76: 恩師のジェームズ・アワー先生との出会いと別れ
米国武者修行時代の一番の恩師で、日米両国に大きな功績を残したジェームズ・アワー米ヴァンダービルト大学名誉教授が5月16日、82歳でご逝去されました。アワー先生との出会いがなければ今の私はありません。常に私の可能性を信じて後押しをしてくださり、大きな愛でご指導いただきました。
アワー先生は米海軍士官、国防総省日本部長、大学教授として活躍されましたが、何よりも愛情とウイットに富んだ偉大な教育者でした。60年近くに渡って日米関係の発展にご尽力され、旭日中綬章を授与されました。また、日本、韓国、米国から3人の養子を迎えて育てられるなど、血縁や国籍などに関係なく人と向き合う慈愛に満ち溢れた方で、私の人生に特別な影響を与えたかけがえのない恩師でした。「アワー先生のような人間になること」が私の人生の目標でもありました。
32歳の時、私は世界で通用する政治家になりたいとの想いで、国際政治の本場である米国に単身渡りました。希望と不安が入り混じる中でスーツケースを2つ抱えてテネシー州の空港に降り立ち、アワー先生との最初の面談を今でも忘れられません。先生は私に中国とロシアから見た日本の地図を見せて、「これが、米国が日本との同盟を重視する理由です。日本列島は中国とロシアが太平洋に進出する防波堤になっています。私が日米同盟の強化を訴えるのは、何も日本食と日本人が大好きだからではなく、日米が協力する世界が米国の国益に明らかに資するからです。だから貴方も、日本にとって何が一番大事かを徹底して考え、日本の国益を堂々と主張してください」。日米同盟の意義や政治家としてのあり方をアワー先生から学びました。
日米関係の強さは、政治指導者の意志に大きく依存しており、日本の政治家としていかに国の平和を守るべきかを明示してくださいました。亡くなったアワー先生からの大きなご恩に報いるには、先生が遺された日米の絆という遺産を受け継ぎ、より深化させ、維持することに全力を尽くすことだと信じています。
一昨年の春、国会議員になって初めての訪米の際に、テネシーのアワー先生を訪問したのが最後の別れとなりました。テネシーの大自然の中、アワー先生と過ごした時間は私の人生の宝です。先生との別れはあまりにも悲し過ぎますが、私も先生のように、ただただ世のため人のために生きていく決意を新たにいたしました。
2024年5月20日
衆議院議員 太栄志 拝